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プロジェクトデザインラボ 第3回 <地域×建築 甑島の未来を考える> 山下賢太さん×谷尻誠さん

プロジェクトデザインラボ<企画の立て方のナレッジシェア講座>第3回。
今回はゲストに、鹿児島県薩摩川内市甑島(こしきじま)より東シナ海の小さな島ブランド株式会社代表取締役山下賢太さん、そして建築家でSUPPOSE DESIGN OFFICE代表の谷尻誠さんを招き、甑島から日本の未来を考える講座を開催しました。
——講師 新井宏征氏(株式会社スタイリッシュ・アイデア代表取締役)

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山下賢太さん × 谷尻誠さん


東シナ海の小さな島ブランド株式会社の山下賢太さんは、鹿児島県薩摩川内市上甑島(かみこしきじま)出身。21歳の時にUターンで甑島へ戻り、島を盛り上げる数々のプロジェクトを仕掛けてきました。農業にはじまり、豆腐屋・土産/飲食店の<山下商店>、島の宿island Hostel<藤や>を展開。今年は新たな新たな取り組みとして、島の仕事やプロジェクトを紹介するプラットフォームであり、働く場やワークショップなどにも使える交流拠点<しまとりえ>をオープンさせるなど、島の未来をつくる魅力的な活動を行なっています。

建築家の谷尻誠さんは共同代表の吉田愛さんとともに率いる建築設計事務所SUPPOSE DESIGN OFFICEの拠点を広島・東京の2ヶ所に置き、インテリアから住宅、複合施設など数多くのデザインを手がけてきました。広島県尾道市で海運倉庫を改修した複合施設<ONOMICHI U2>や、「泊まれる本屋」をコンセプトにしたホステル<BOOK AND BED TOKYO>、また今年移転した東京事務所には社員食堂であり街の人も利用できるレストラン&カフェ<社食堂>をオープンし大きな話題を呼んでいます。

そんな二人をゲストに迎えた今回の講座は、セミナー形式ではなく、ゲスト・参加者全員で大きな車座に。

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日本の未来の「なに」を考える?

まずは全員で「日本の未来×□□□□」というテーマで各自が関心のあるポイントを発表。
山下さんからは、甑島でもっとも身近な問題意識として漁獲量そして漁業者の減少を危惧して「日本の未来×水産業」
2016年から水産業を盛り上げ、漁師と消費者を繋ぐKOSHIKI FISHERMAN’S festの企画運営も行っています。

一方、谷尻さんからは「日本の未来×歴史」というキーワードが。
「日本人は歴史を重んじる文化があるけど、これから歴史を作っていこうという人はいないですよね。このままだと過去の歴史だけにしがみつくようになってしまうのではないかと思って、この言葉を挙げました。」と谷尻さん。

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1本のアコウの木からはじまった——「甑島の未来」をつくる活動

山下さんに、甑島にUターンをしたきっかけや活動、想いをじっくりと語ってもらいました。

山下さんが地元である甑島で現在のような活動をはじめたのは、父親の一言がきっかけだったといいます。
ある日、地域で大切にされていた一本のアコウの木が、山下さんのお父さんの会社が手がけた土木工事で姿を消してしまいました。
工事の理由を聞くと、思いがけず返ってきたのは「お前を育てるためだ」という言葉。
身近で起きている、離島の産業と暮らしの現実が山下さんに大きな影響を与えました。

この出来事をきっかけに、離島での暮らし、産業、守りたい風景、コミュニティーなど、
島の未来に問題意識を強く持った山下さんは、甑島の未来をつくる活動をはじめます。

これまで山下さんが手がけてきた数々のプロジェクトはこちらから。
東シナ海の小さな島ブランド株式会社 http://island-ecs.jp/

今や自らが仕掛ける発信やイベントを通し、多くの人々が甑島を訪れます。

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人々が甑島に魅力を感じるポイントは”余白があること”

会場ではゲストの二人と参加者が一体となり、甑島産の焼酎と食材を囲んでざっくばらんにトークは続きます。まちや人との関わり方、視点の持ち方など、参加者からは次々と質問が。

「完全に出来上がった風景やコミュニティーではなく、甑島には自分が入り込めそうな余白がある—–その『余白』が人を惹きつけているのではないでしょうか」と山下さん。

建築家である谷尻さんに「山下さんの話を聞いて、その『余白』に対して谷尻さんはどんなものを作りたいですか?」と聞いてみると
『余白』は『余白』のままがいいんじゃないですか。余計なものをつくってしまわない方が。」

地元の人が愛着を持って育ててきた風景は自然体でそのままに、
その中で山下さんのような、「圧倒的な人間力をもつ人(by谷尻さん)」が、その人らしい活動を通して島での暮らしを守り育てていくことが理想の形なのではないかと感じました。


「山下さんは何でそんなにすごいんですか?」との問いに、
山下さんは一瞬照れながらも
甑島は20年後の日本を先行しているような場所。そんな場所で自分が特別な人間ではなく、あたりまえになりたい。銅像が建つような人間にはなりたくないんです!」と語りました。
すかさず谷尻さんからは「銅像作っちゃいましょうよ! そしたらこれからも実績がきっともっと積み重なっていくはずですよね!」 

やっぱり山下さんは誰から見ても、人を惹きつけてやまない存在のようです。

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終盤は、地域や未来の話にとどまらず、ふだん谷尻さんが書き溜めているノートの中身や、最近考えているという「『考える』ということ」について、企画のコツともいえる自身のスタイルをたくさんお話いただきました。

島の暮らしを通して、「日本の未来」、「まち」や「人」、「自分自身との関わり方」、、様々な角度から考えをめぐらせた夜。
刺激のシャワーとも言えるような時間はあっというまに時間は過ぎていきました。

山下さん、谷尻さん 貴重な時間をありがとうございました。

<文責:コーディネイター 児島絵里子>